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東京高等裁判所 平成6年(て)174号 決定

主文

被告人に対し、平成六年一〇月一三日に横浜地方裁判所がした保釈許可決定は、これを取り消す。

理由

本件保釈許可決定取消請求の趣意は、検察官宇野博の保釈許可決定取消請求書に記載のとおりであるから、これを引用する。

そこで、記録及び右請求書添付の各資料を調査して検討すると、被告人は、平成六年八月一一日に傷害罪で勾留され、同月二五日同罪で横浜地方裁判所に公訴を提起され、同年一〇月三日同裁判所で被告人を懲役六月に処する旨の判決が言い渡されたこと、被告人は、同日右判決を不服として控訴申立てをし、同月七日弁護人三野研太郎より被告人について保釈請求がなされたので、横浜地方裁判所は、同月一三日、保釈保証金を一二〇万円とし、「逃亡したり、罪証を隠滅したりすると疑われるような行動をとつてはならない。」等の遵守事項を定めた保釈許可決定をしたが、訴訟記録が控訴審である当裁判所に送付された今日にいたるまで、右保釈保証金の納付はなく、被告人は現在横浜拘置支所(その後東京拘置所に移監)に身柄を勾留されたままであること、しかるに被告人は、同月一八日から二六日にかけて、右拘置支所から、右傷害事件の被害者及び目撃者、ならびに右傷害事件のきつかけとなつた被告人の強制わいせつ行為の被害者に対し、それぞれ事実関係につき詳細な質問事項を記載した質問状なるものを発出したが、その内容は、いずれも、暗に被告人が強制わいせつ行為などしておらず、被告人は一方的に相手方より暴行を受けたものであるとの被告人自身の主張に沿うような供述をするよう働きかけたものであり、さらに右質問事項の中には、被告人自身が懲役六月の実刑に処せられて現に勾留されていることをどう思うかなどという、右三名に対する被告人の怨念を吐露しているとしか解されない質問も含まれていたため、右質問状を受け取つた右三名の者は被告人からの将来の報復を恐れて捜査機関にこれを届け出るにいたつたことなどを認めることができる。

被告人のこの行動は、明らかに右三名の者に働きかけて罪証を隠滅しようとしたものであり、かつ、これらの者に将来被告人から危害を加えられるのではないかとの畏怖心を与えるに十分なものといわなければならず、本件保釈許可決定取消請求は理由があるというべきである。

よつて、刑訴法九六条一項三号、四号を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 小泉祐康 裁判官 日比幹夫 裁判官 松尾昭一)

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